今年も確定申告の季節になった(これをupする頃はもう終わってるでしょうけど)。確定申告は独立するとき懸念していた事項の一つで、数字に弱い私にちゃんと出来るのか心配だった。それまで勤めていた会社を退社したのが94年の9月20日で、その翌日9月21日が私にとっての「独立記念日」、初めて確定申告をしたのは翌95年の3月である。幸い(?)女房はそれより以前からフリーとしてイラストレータをやっており、確定申告も毎年やっていた。最も身近なところに経験者がいるので、当然私は頼りにするつもりであった。で、初めての確定申告を迎えたとき女房に聞く。
「確定申告のやりかた教えて」
すると返ってきた答えは
「使ったお金を項目に分けて一覧にしたら、それを持って行けばいいのよ」
「えっ?白とか青とかの用紙に書き込むんじゃないの?」
「ほんとはね。でも持っていって並べば向こうの人がやってくれるから。最初はそれでいいのよ」
どうやら女房は今まであまり自分で書いていなかったらしい(汗)。確かに申告書を提出する税務署には、確定申告の時期は相談役の税務署の方達が、解らない人のために色々と面倒をみてくれる。彼女はそれに「おんぶにだっこ」でやってきたようだ。まぁ、その方達の給料も我々の払う税金でまかなっているのだから、利用しない手は無いのだろうが、毎年確定申告をしている彼女に対して、密かに尊敬の念を抱いていた私としては、なんだかなぁ…。
初めての確定申告は前年の3カ月とちょっとの分しかなく、もちろん利益も出ていないので、たいした手間にはならなかった。もちろん白色申告である。一応女房の言うとおり交通費だの光熱費だのと項目を分け、合計金額を一覧にして税務署へ向かった。相談窓口のコーナーに並ぶ。ものすごい混雑の中ずいぶんと待たされたが、ようやく自分の順番が回ってきた。
「あのぉ、初めてなんですけど…。」
「はいはい。」
ずいぶんと無愛想に、私がまとめた諸経費と売上金額のメモを受け取った税理士さんは、目にもとまらぬ早さで電卓をたたき、申告用紙(控え用)をあっという間に埋めていった。
「これを提出用に清書してください。それとこの控えを参考にして、次回からはご自分でなさってください」
これが私の初めての確定申告。わすか十数分の出来事だった。
翌95年度分は自分でやってみようと思った(あたりまえ?)。どうも女房はあまりアテになりそうもない。それで確定申告の本を購入。それを読んでいると、どうも青色申告のほうが得なようだ。ネックは帳簿をつけることだが、パソコンを使えば簡単だと書いてある。パソコンならここにMacintoshがある。考えてみれば八百屋の親父だって、パン屋の娘だって確定申告をやっているんだ。私でもその気になれば出来るんじゃないか? なんと言ってもこの商売は帳簿を付けるのだって簡単なはずだ。なにしろ仕事が入った、いくら外注した、請求した、いくら入った、これだけのことだ。魚屋の親父は毎日、何をいくらで仕入れて、それをいくらで売って、売れ残りがこれだけあって、今日の売上はいくらで、利益がいくら、損がいくら…これを毎日やっている(?)訳なんだし、それに比べりゃデザイナーの帳簿なんて、ちょろいはず。しかもパソコンの扱いには、少々慣れているわけだし…。
というわけで、青色申告をするために会計ソフトを購入。しかし、残念ながら青色申告にするには届出が必要で、95年度分の届出締切は過ぎてしまっていた。そこで95年度分は白、96年度から青色申告に切り替えることにする。95年度分の申告は参考書を見ながらどうにか自分で書き込み提出。自分で完成させた人は並ばなくてすむ。人混みを後目に「ぽん」と提出して終わり、というのはなかなかの快感だ(笑)。その足で青色申告の届出書を提出した。
解らないなりにもなんとか参考書と首っ引きで帳簿を付け始める。どうしても理解できないところは、もと有名企業の経理を担当していた友人の奥さんに相談したりしたこともあった。
帳簿を付け始めた96年の夏の終わり頃だったと思う。自宅に1本の電話がかかってきた。
「もしもし、i会計事務所のiと申します。木村岩広様でいらっしゃいますか? 青色申告の帳簿はいかがでしょうか?」
何かのセールスかと思った。すぐに電話を切ろうと思ったのだが、なぜ自分が青色申告の帳簿を付けていることを知っているんだろう? まさか税務署が業者に情報を流しているんじゃないだろうな? そう考え、電話の理由を問いただしてみることにした。そしたら…。
恥ずかしい話、私は全く覚えていないのだが、届出書の中かまたは別紙に「税理士の相談を受ける」といったたぐいの項目があり、どうも私はそこにチェックをしたらしい。それで税務署から依頼されたi氏が電話をしてきたというわけ。話を聞いてみると、これから来年の2月までに2カ月おきに帳簿のチェックをしてくれるという。解らないことがあれば、なんでも聞いて欲しい。もちろん無料。
いや、これは願ったりかなったり。しかもわざわざ事務所まで来てくれるというではないか。「お願いいたします」と電話を切った数日後、i氏が約束通り事務所まで来てくれた。帳簿のことはもちろん、色々なお話を伺った。なんだか、とっても感じのいい人だ。すっかりi氏のことを気に入ってしまった私は、できれば来年からも相談にのっていただけないものか聞いてみた。もちろん有料で。嬉しいことに快く承諾してくれ、それ以来毎年i氏のお世話になっている。
基本的にはこれまで通り帳簿や申告書は自分で書く。それを申告前にi氏にチェックしてもらい、色々とアドバイスを受ける。さらにそれをi氏が清書してくれる。また、なにか疑問点や問題点があった場合は、電話で出来る程度の相談にはいつでものってもらえる。それだけしていただいて、年間ほんのわずかな金額でかまわないと言われ、「それは、いくらなんでも…」とこちらが恐縮してしまうくらいだ。私にとっては、i氏とは本当にいい出会いだった。
さて、ここを読んでいる方の中で、これから独立しようと思っていらっしゃる方もいるかも知れないので、今まで私がi氏に相談した疑問をいくつか紹介しよう。何かの参考になってくれれば幸いだ。
●消費税はとっていいのか?
あるお客さんに言われた。「君の所は消費税をとるのか?売上3000万以上あるのか?ないだろ?それなのになぜ消費税をとるんだ。」なんだかすごくイヤな言われ方をして反論したかったのだが、知識を持っていなかったので、その時は反論出来なかった(多分その人は少しでも値切りたかったのだろう)。
答えはとって良い。確かに売上3000万以下の業者は免税になるので、消費税は益税となる。しかしこれは国が「とりなさい」と言っている税金なので、堂々ととって構わない。第一こちらから手助けをお願いするスタッフや出力センター、また文具やパソコンを買うときにだって消費税はとられている。私だけとれないのでは、消費税とられ損だ。
それから、免税業者と課税業者の境目の3000万だが、これはあくまで売上である。つまり2999万円の仕入れ値があり3000万円の売上がある(つまり利益は1万円)場合は課税業者。とった消費税は国に納めなければならない。逆に2999万円売上があり仕入れが0(つまり2999万円の利益)でも免税業者となり、とった消費税は自分のふところに入る。変な話だ。
●銀行振り込み手数料は誰が負担するのか?
お金をもらう側が負担する。本来、お金をもらう側が集金に来て、領収書と引き替えにお金をもらう。それを払う側がわざわざ受け取る人の口座に振り込むのだから、振込手数料はもらう側が負担するのが基本。この理屈は解るのだが、支払者の手間賃として支払者のふところに入るならともかく、なんで銀行にお金が入るのだろう?解せない。銀行ってキライ。
銀行ついでに。銀行口座に利子が付いた場合、その利子にはすでに税金分が引かれているので、申告時に収入として入れることはない。
●源泉徴収は?
源泉は徴収する方に「義務」がある。ただし法人相手なら徴収する必要はない。個人事業者に対して報酬を支払う場合、支払う側は1割源泉しそれを納税、翌年頭に支払調書を用意する義務がある。なので源泉されずに報酬を受け取った場合は、受取手には問題はない。逆に個人のスタッフにお金を支払う場合は、支払う側が法人であれ、個人であれ源泉する義務が発生する。とはいえ、仲間内で仕事を回しあう場合、いちいち源泉などしないのが現状だろう。もし、何か問題が発生し、税務署に目を付けられた場合はしっかり徴収される(しかも延滞金が加算されて)らしい。だからといって後から「源泉分返してくれ」とは言いにくい。どうするかは仲間内でよく話し合っておいた方がよいだろう。
ちなみに源泉額は100万円まで1割。100万円を超えると、超えた分は2割になる。例えば130万円の請求を起こすと、100万円までの1割10万円と超えた分30万円の2割6万円が加算され16万円の源泉となる。もし状況が許されるなら100万円以内の請求を2カ月にわたって請求する方がいいかもしれない。もちろん確定申告をすれば還付金として戻ってくる。
蛇足だが還付金は金額に応じてほんの気持ちだけ利子が付く場合もある。この利子も収入として確定申告時には申告する必要がある。
もう一つ源泉。源泉する金額は消費税分を含めた1割なのか、消費税を加算する前の金額の1割なのか。これはどちらでも良い。徴収する側が選択する。通常は消費税を含めない金額の1割を徴収する所が多いようだが、中には税込み金額の1割を源泉するところもある。多くのフリーランスのスタッフを使っている会社などでは、消費税を加算する人と、しない人が混在するため、一律に「支払う金額の1割」を徴収するというやり方を行っている所などがあるようだ。
●減価償却残高も資産税の対象となる
実はこれ、去年初めて知ったのだが、減価償却の残高が150万円を超えていると資産税の対象となる。別に不動産を持っているわけではなくても、例えばMacintoshを何台かまとめて買った年は、あとから資産税の請求が回ってくるケースがある。東京都以外に仕事場を構えている人は「何をいまさら」と思うかも知れないが、なぜ私が去年初めて知ったかというと、一昨年まで東京都は個人事業者に対して償却資産税を請求していなかったのだ。赤字財政の影響だろうか、去年いきなり申告するように、との通知が送られてきてビックリした次第。私はかすかに超えていて、結局、少額ではあるが資産税を徴収された。
だいたいパソコンの減価償却が6年というのは、時代にまったく追いついていない。同業者のみなさん、今お使いのMacintosh、6年後までメインマシンとして使えますか?購入時には償却資産残高も念頭に入れて購入しましょう。
2002年3月追記
平成13年度分からはパソコンの減価償却は4年に変更。
●パソコン減税って?
というわけなのか?去年(99年)はパソコン減税という、世にも不思議な減税があった。これは今年も延長されているので、これからパソコンを買おうと言う人にも当てはまる。
減価償却についておさらいしておくと
9万9999円までのものを購入した場合はそのまま経費として計上
10万円以上19万9999円までの場合3回に分けて償却
20万円以上の場合はそれぞれ決められた年数で(パソコンは6年)で減価償却
この時、気を付けなければいけないのが、免税業者の場合(売上3000万円以下の業者の場合)は、10万円以上、20万円以上とは税込み金額である。つまり免税業者は9万5238円までが経費として計上できる上限となる。課税業者の場合は税抜きで計算する。
で、パソコン減税だが、99万9999円までのパソコンを購入した場合、本来6年かけて減価償却するものを、去年と今年に限り1回で償却できる、というもの(白色申告者は不可)。
パソコンというくくりに、ある程度の無理がある。周辺機器はどうなのか。答えは同時購入に限りパソコン減税の対象となる。極端な話1万円の中古パソコンと98万円のプリンタを同時購入した場合はOK、パソコン本体はA店で、プリンタはB店でという買い方をすると不可となる。また、パソコン減税にはもう一つ落とし穴がある。前述の資産税だ。一括で償却されるとはいえ、あくまで資産である。経費として計上出来るわけではないので、資産税の対象となるのでご注意を。
2001年2月追記
確定申告時「減価償却費の計算」の欄へは、どのようにパソコン減税分を記入すれば良いか。
(イ)の取得価格にはもちろん購入金額を書く。(ロ)の償却の基礎になる金額の欄にも通常の減価償却のように0.9を掛けた金額を記入。以下(ホ)まで通常通りに書き込み、(へ)の「割増(特別)償却費」の欄に、(イ)の取得金額から(ロ)の償却の基礎になる金額を引いた数字を書き込む。(リ)には取得金額、つまり全額を、(ヌ)には「0」を記入。これで全額償却できる。
パソコン減税は2001年3月31日まで有効。2001年になってからパソコンを購入した人は(4月以降は不可)2002年の確定申告時(平成13年度分)に一括で償却できる。
●戻ってきた還付金は安易に使わない方が良い
確定申告の末、5月に還付金が戻ってくる。たくさん稼いでいる人は、逆に取られる場合もある。会社員の年末調整はこれにあたる。会社員の場合、自分で確定申告をしないので、会社が先に計算し年末調整として前払いで払うのが通例だ。で、嬉しい還付金だが何も考えずに使ってしまうと痛い目に合いかねない。この後に色々と他の税金が回ってくるからだ。それらは確定申告の数字をもとに計算されるので、還付金がたくさん戻ってくる人ほど、後からくる税金も高く付く場合が多い。税金だけでなく保険料などもそうだ。突然保険料が跳ね上がることもあるので、安易に使ってしまわない方が良いと思う。
●還付金の金額を確かめよう
4月になると「国税還付金振込通知書」という葉書が送られてくる。ここに確定申告時に指定した自分の口座へ振り込まれる、還付金の金額が書かれている。この金額を確定申告書の控えと良く見比べてみよう。滅多に無いことかも知れないが、食い違うケースがある。もちろん「内還付加算金」(還付金の利子)が付いている場合はそれを差し引いて計算するが、それでも合わないことがある。これは年末に請求した金額(つまり売掛金)がその年度内に支払われなかった場合に起こりうるケースだ。年をまたいで支払われる金額の分を、その年度として処理するお客様の場合、支払調書が2段で書かれている。上の「内」という金額が年をまたいだ分の支払金額と源泉徴収税額だ。この分が入っていない場合がある。実際私は2年続けてあった。この場合は別途「源泉聴取税額の納付届出書」という物を提出すれば、後から不足分が戻ってくる。しかし、気が付かずにこちらが何もしないと戻らない。こちらが税金未納の場合はどこまでも追いかけてくるくせに、あちらが未払いの分はこちらから催促しないと、そのまま未払いで通される。つまらない損はしないようにしよう。
こんなところだろうか。もし何か思いついたらここに書き足すことにするが、私は税理士ではないので税金のことを質問しないように(笑)。
最後にこれだけは言いたい。税金をたくさん払うということは、それだけ売上が上がっていると言うことだから「たくさん税金を払えるようになりたい」というのが本来の経営者の気持ちだ。しかし払った税金が全て本当に役立っているのだろうか。ニュースなど見ていると税金の無駄遣いの多いこと。無駄にされてしまうなら払いたくない。当然だろう。その金を得るのに我々がどれだけ苦労しているのか、解っているのか?<政治家さん。
それとサラリーマンも自分で確定申告をするべきだ。単純に給料から天引きされていると、自分がどれだけ税金を搾取されているのか実感が持てない。実際、私も自分で確定申告をはじめて、いかに税金を取られているのか実感した。税金の無駄遣いを止めない以上、こちらも1円でも多くの税金を払いたくない。確定申告はそれを教えてくれる良い機会だと思う。
とにかく今の政治家のために、これ以上無駄な税金は払いたくない。出来るだけ節税しなけりゃ損だ。この考えを変えてくれるような政治を待ち望んでいる。
(無理だな…)
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