HITORIGOTO
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カラーカンプ



 まだDTPというものが無かった当時、デザイナーが作るデザインカンプはモノクロが当たり前だった。Macintoshが現れる前はカラーカンプを制作するとなると、大変な労力と時間、そしてコストがかかったからだ。写植文字をイントやクロマティックなどのカラーシールにするため業者に発注し、オーバーレイというカラーシートを張り合わせ制作する。これらは結構な手間とお金が発生する。またカラーコピーを切り貼りして制作するにしても、膨大な量をコピーしなければならず、カウント数はかなりの数字になった。ゴミもすごい量で出た。なのでカラーカンプ制作は、場合によってはデザイン料金と同額程度のコストがかかることも珍しくなく、通常はモノクロのラフにカラーチップを付けて「ここはこういう色になります」と口で説明するのが一般的だった。予算に余裕のある仕事の場合はカラーカンプを制作したが、私の経験ではそうそうあることでは無かった。

 ところがMacintoshがこの業界の標準になり、またカラープリンタの精度が上がったことで、現在は簡単にカラーカンプを出力することが出来ようになった。パソコンの普及度もすさまじい勢いで上がったため、クライアントも「カラーで出力する事がたいした手間ではない」という認識を持ち始めたのか、「カラーカンプが当たり前」という風潮が私の回りではまかり通っている。

 確かにカラーカンプを制作することは楽になったし、ゴミも減った。安価なプリンタでもかなり綺麗な物を出力できるようになった。技術の進歩のおかげだろう。また、モノクロのラフを見せて口で配色を説明しても、多分イメージは掴めなかったであろうお客さんにも、解りやすくなったはずだ。いいことづくめのはずなのだが、ところが実際はそうでもないのだ。

 最近のカラープリンタの性能は異常なほど高く、下手をすると印刷物より綺麗に上がってしまう。特にインクジェットのプリンタだと発色が良すぎて、印刷物のイメージより派手にプリントされる(そのかわりトーンを落とした渋めの色は出にくいのだが)。私の場合このカラーカンプを代理店の営業マンに渡し、クライアントに了承を得てきてもらうのだが、クライアントはこのイメージが頭に焼き付いてしまうのか、「カンプの方が色が良かった」と納品後にクレームが付く場合がある。
「カンプと印刷では多少色が変わりますよ」と説明してもらうようにいつも伝えているのだが、やはり一部のクライアントはどれだけ説明しても、はじめに見たカンプのイメージで判断してしまうらしい。ひどい場合は製版屋・印刷屋さんにカンプを渡し「この色に近づけて」と注文することもあると聞く。これでは本末転倒だ。製版・印刷屋さんに対しても失礼だと思う。

 では、どうすればいいだろう。私は一度そういうクレームの付いたお客さんに対しては、カラーカンプを出さない・もしくはカラーで出力してもわざと綺麗に出力しない、という方法を取ることにしているが、それでは「競合他社のデザインにハンデを背負ってしまう」と代理店の営業マンは頭を抱えている。しかしどんなプリンタで出力しても色は変わるのだ。カンプはあくまで色の目安であり、色校正とは違う。仮にプリンタで「印刷とドンピシャ」の色を出力できたとしてOKをもらっても、そういうクレームを付けるお客さんに限って、色校正で全然違う直しを平気で入れてくる。

 だいたい色校と本刷りだって色は変わる。もっと細かいことを言えば、印刷の台によっても色は違うし、何より目安にしているカラーチップだって、あてにはならない。確かにそういう事を、シロートであるお客さんに納得してもらうのは大変な事かも知れないが、そこは営業マンに頑張ってもらうしか方法は無いのではないだろうか? 実際、数は少ないが直で取引している私のお客さんには、やはりさんざん説明して「そういう物だ」と納得してもらえるようになった。別に赤が青になる訳じゃないんだし、それでは何のための色校正なんだろう。昔モノクロのラフを見て、印刷の上がりを想像してもらっていたあの頃の方が、かえってこういうトラブルは少なかったように思えるのは何故だろう。

 「アミの5%や10%違ったところで、壊れるようなデザインはしていない。」と胸をはって言えない自分も情けないのだが…。

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