HITORIGOTO
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人情話



 前のページであまりカナダについて良くない印象を書いてしまったのでフォローしておくことにする(笑)。雄大な自然とゆっくり流れる時間。日本では考えられない広さ(高速道路にいたっては、片側8車線ですよっ、8車線!)。そしてあたたかい人たち…。いや、ほんと。何だか決まりきった台詞だけど、本当にカナダはいいところだ。機会があればぜひ一度は訪れてみて欲しい。と言うわけで、カナダを旅行中体験した感動的な出来事などを、ひとつ。お付き合いくださいませ。

 私たちはカナダへ行ったのが海外旅行初体験。で、このツアーには添乗員が付いてなく、いわゆる現地係員だけ。現地係員とは空港で出迎えてくれ、ホテルまで送ってチェックインの手続きをしてくれて、帰りにホテルのチェックアウトと飛行機のチェックインを代行してくれるだけである。旅行に申し込んだときは、まさか他にもツアー客がいるだろうと思い、何かあったら他の人についていけばいい、と考えていた(笑)。ところが旅行当日になってみたら、そのツアーは私たち2人だけしか参加していなかった。結果、移動中は英語も話せない私たち2人だけで、何が起きても対処しなければならなくなった。そして…。

 その日、ナイアガラの滝とその周辺を観光した私たちは、次の目的地「ケベックシティ」へ向かうところだった。ナイアガラの滝の最寄りの空港はトロント空港で、そこからケベック空港へは直行便が出ておらず、途中モントリオール空港でトランジット(乗り換え)をしなければならなかった。で、何が起こったかというと、ご想像の通り…飛行機が遅れた。それもトロントからモントリオールへ向かう便が。それは、モントリオールからケベックへ向かう飛行機に間に合わなくなる、つまり私たち2人だけ日本語の通じない見知らぬ地で「置いてきぼり」をくらうことになる、という事を意味しているわけだ。

 いや最初は、たかをくくっていた。「飛行機だもん。ましてカナダだもん。多少飛行機が遅れることもあるでしょ。気にしない、気にしない。」ってな具合。しかし、20分たち、40分たっても一向に飛行機は出ようとしない。だんだん不安になってきた頃、なにやら機内アナウンスが流れる。しかし悲しいかな何を言っているのかさっぱり解らない。すると乗客の半分位の人が飛行機を降りてしまった。「えっ? 何? どうしたの?」と思っても他の乗客に日本人は見あたらないので、事の事態を誰にも聞くことができない。それより乗り換える予定の飛行機に間に合うのか? という不安がフツフツと沸いてくる。で、しょうがないのでスチュワーデスさんを呼び止めて、乗り換えの飛行機チケット(モントリオール発ケベック行)を見せた。すると「Waoo」って感じだろうか、身振り手振りで「そこに座っていろ」というゼスチャーをし、我々のチケットを手にどこかへ行ってしまった。とりあえず通じたようだ。しばらくして、スチュワーデスさんは戻ってきて、にっこりほほえみながらチケットを返し、また「そこに座っていろ」というゼスチャーをした。とにかくこれで安心。ふぅ。

 結局、2時間遅れでその飛行機はモントリオールへ向けて出発した。出発間際に先ほど降りていった半分の乗客が戻ってきた。つまりさっきのアナウンスは「遅れるから外で待っていてもいいよ」という事だったのだろう。飛行機はもちろん2時間遅れでモントリオール空港へ到着した。で、ここからがすごかった。こんな経験は多分2度と出来ないだろう。飛行機が滑走路に着陸したら(つまりまだ滑走路を走っている状態・もちろんシートベルトサインはついている)先ほどのスチュワーデスさんが我々の席へやってきて、「こっちへこい」という手振りをする。???な状態だがシートベルトを外し、言われるままについていくと、出口の扉の前に立たされた。そして飛行機が止まりドアが開いたとたん、そのスチュワーデスさんは「早く!ついてこい!」(たぶんそう言ったのだと思う・笑)と叫びながらタラップを駆け下りて行く。私たちも後に続く。今乗ってきた飛行機の下をくぐり、滑走路を横切り、芝生の上を駆け、向こうの滑走路まで走った。そこにはエンジンをかけた、もう一機の飛行機がいた。そう、ケベック行きの飛行機だ。息を切らしながらスチュワーデスさんは「早くタラップを上れ」というゼスチャーをし、私たちが乗ると同時にその飛行機は滑走路を走りだした。つまり、その飛行機は私たち2人のために2時間待っていたのだ。

 モントリオールからケベックへ向かう飛行機は、乗客100名くらいが定員の小型のプロペラ機だった。多分ケベックシティの方々の生活の足としての路線なのだろう。別に私たちが悪い訳ではないのだが、この人たちは訳のわからない日本人乗客2人のために、ここで2時間足止めをくったことになる。普段通勤の電車が5分10分遅れただけで私はイライラしてしまうのに、この人達は私たちのために2時間も待たされたのである。そう思うと、なんだかすごく申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
多分あらかじめ席をずれてもらっておいたのだろう、出入口から一番近い席に私たちが座った時は、飛行機はすでに滑走路を離れようとしていた。
極度の緊張感から解放されたことと、少々飲んでいたワインのせいもあり、私たちはぐったりした状態のままケベック空港に到着した。目の前の出入り口が開いても、すぐに席を立つ気にはなれなかった私たちは、一番最後に飛行機を降りることにした。すると私たちの横を通り過ぎ降りていく他の乗客が、みな私たちに向かいニッコリほほえみながら口々に「ウェルカム・トゥ・ケベック」と言いながら通り過ぎていったのである。

彼ら・彼女らは自分たちが2時間待たされたことより、異国の人が自分たちの街を訪れたことに対し歓迎の意を表してくれたのだ。正直な話、涙が出そうになった。もし自分が誰かのせいで2時間も待たされたら、それでもその人に対し「ようこそ」なんて言えるだろうか?いや、多分「ったく、お前らのせいで…。飛行機の乗り継ぎも出来ないなら、こんな所へ来るんじゃねぇよ」とか思っていただろう。
先日のホテルのことも、今日の飛行機のことも、もうどうでも良かった。なんて素敵な国なんだろう、カナダって。そんな気持ちでいっぱいになった。

 いきなりこんなハプニングの洗礼を受けた私たちは、これで海外旅行にハマってしまい、その後あちこち出かけていくことになる。相変わらず英語はできないままだが(笑)。
一つだけ今でも悔やまれるのは、飛行機の下をくぐるなんて、まず出来ない経験だし、できれば写真を撮っておきたかった(笑)。それと、私たち2人と手荷物は滑り込みで飛行機に間に合ったが、もちろん機内預けの荷物は届かず、その晩着替えが出来なかったというおまけ付き。

あれ?あまりフォローになってなかったかな?(笑)

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