HITORIGOTO
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もんじゃ焼きとITと南北線



 とうとう21世紀を迎えてしまった。子供の頃そんな先の未来はとても想像出来なかったのだが、21世紀になったからとはいえ別になんてことない、いつもと同じ新年を迎えた。これを書いている1月30日時点では正月などとっくの昔のような気がするが、まぁ、今年もよろしくお付き合い下さいませ。

 去年の暮れ、東京には「都営地下鉄 大江戸線」という路線が開通した。山手線から少々外れた外側をぐるっと回る(正しくは回っていないが)環状線だ。今のところ私にはこの「大江戸線」を利用する機会が見あたらないので、これに乗るのはずいぶん先になりそうだ。別にさして乗りたいわけではないが、新しい物は何となく興味があると言えばあるかも知れない…かな?(どっちだ・笑)。
少し前に開通した「営団地下鉄 南北線」には何度か乗車する機会があった。南北線のホームの綺麗さには、ずいぶん驚いた記憶がある。新しいから綺麗だと言うだけでなく、照明のあて方などに気を使っており、ちょっとお洒落な雰囲気を醸し出している。イライラしがちなホームで電車を待つ時間を、少しでも和らげるように設計されたのだろうか。電車の風圧をホームに通さないための2重の扉もそうだし、かなり好感が持てる駅だった。ただ「電車に乗降車するための場所」と位置づけられていた駅も、こうして時代とともに少しずつ変わっていくのだろう。

 話を「大江戸線」に戻そう。実はこの大江戸線が開通した日、義母が「乗ってみたい」と言い出したそうだ。美容院を営んでいる義母は、たまたまお店の定休日だったこともあり、娘(つまり私の女房)を誘い、大江戸線の東京小旅行(?)を決行した。深川の八藩様へのお参りや、麻布十番や新宿のデパートで買い物をして帰ってきたくらいで、別にこれと言った珍しいことがあったわけでも無かったらしいのだが、その晩、女房の話を聞いて大笑いしてしまったことが一つあった。

 お昼に何を食べようと考えたあげく、2人は月島で降りて「もんじゃ焼き」を食べることにしたらしい。本場の(?)もんじゃは月島なのだそうだ。「もんじゃ」とはメチャメチャ薄いお好み焼きと思って貰えればいいかな? 私は東京生まれなので、他の地域にあるのか無いのかハッキリとは知らないのだが、どうも東京下町限定の食べ物だと聞く。見た目ははっきり言ってあまり良くない。味もそれほどいいものでは無いと思う。しかし私も女房も下町育ちで、もんじゃは我々にとっては、駄菓子屋で食べる子供に欠かせない「おやつ」だった。そう、もんじゃは駄菓子屋で食べるものであって、決してお好み焼き屋のような場所にメニューとして乗るような高級(?)な食べ物では無かったはずだ。
で、もんじゃのお店に2人が入ったところ、店員にクドクドもんじゃの焼き方、食べ方をレクチャーされたそうだ。多分女房はその店員よりも、ずっともんじゃ歴(?)は長いはずだ。
子供が汗ばんだ手に握りしめた小銭で、ベビースターラーメンの塩味や、他の駄菓子と一緒に適当に焼いて食べるのが「もんじゃ」だ。おばちゃんに鉄板に火を入れて貰い、小さなテーブルを友達3〜4人て囲み、みんな思い思いに食べる物で、そこにはクドクド注意されなければならない「ルール」などは無かった。あるとすれば「仲良く食べること」と、「他人の陣地に流れ出してしまったもんじゃは、食べられてしまっても文句無し」というくらいか。
まぁ、しょうがないと言えばしょうがないのだが、今更もんじゃの食べ方を説明されても…と女房はその晩、笑いながらこぼしていたのだが、なんだかそれがとても可笑しくて大笑いしてしまったという次第。

 もんじゃは、どういうわけか、ある種の東京名物になってしまったのだろう。なんだか、子供の頃当たり前のようにあった物が「名物」と祭り上げられ、他の地域の人がわざわざ食べに来るというのが、不思議だという気持ちと、少しだけ違和感を感じる。名物とはそういうものなのだろうか?
多分そうなのだろう。「広島風お好み焼き」も「もみじ饅頭」も「生八つ橋」も地元の人にとっては、そんなに騒いだりするような物では無いのかも知れない。ひっそりとその地域に根付いたものは、あくまでひっそりとしていて欲しい気もする。たまたま旅行中にとの土地を通りかかって、たまたま偶然その名物に出会うから旅は楽しいのだ。
もっとも「ピッツァ食べにイタリア行きたい」などと言っている私に言う資格はないが(笑)。

 とりあえず、はっきり言っておく。もんじゃはわざわざ食べに来る程の物ではない。だからこれから「東京行ったときにもんじゃ食べるんだ」と意気込んでいる人は、あまり期待しないように。
しかし、なんでこんなに有名になってしまったのだろう?たかが「もんじゃ」ごときが。やはり東京の下町には「もんじゃという不思議な食べ物がある」とメディアが紹介したからだろう。もみじ饅頭だってB&B(なつかし〜)が漫才のネタにしなければ、私は未だにその存在を知らなかったと思う。メディアの力、恐るべし…。

 そして我々はメディアの流す情報に驚くほど敏感で貪欲だ。ジッとしていても整理しきれないほどの情報が飛び込んでくるのに、さらにインターネットだ、ITだと、情報を漁り続けている。情報端末やメディアが進化して、便利で多機能になることにに文句を付けるつもりはないが、私自身は最近少々食傷気味だ。
大体最近の携帯電話はなんなんだろう。カメラやウォークマンが付いて、それでも電話か? そのうち掃除機や電子レンジも付くんじゃないか?
「今度の携帯電話は冷凍食品を解凍できま〜〜す!」なんてコマーシャルが流れるのも時間の問題だな。…あ、やっぱり私、文句つけてますね…。

 便利なのはけっこう。嬉しいことだ。だけど「JA」とうまく言えないお年寄りの農家の方や、自動券売機で切符を買えない方がいるように、そのうち私も流れに取り残されていくのだろうか。いや、いくな。なにしろ根っからの機械オンチだし…。
しかし今IT、ITと騒いでいる人の内、いったいどれだけの人が本当にITの恩恵を受けているのだろう。私はほとんど意地で携帯電話を所有していないが、あれだけ多機能な携帯電話を使いこなしている人ははたしてどの位いるというのか。

 私はある部分、将来時代に取り残されてもいいと思っている。そして「昔はどうだった」とか「最近の若いモンは」とブチブチ言ってやるんだ。21世紀の初頭にそう心に決めた。

 たかがもんじゃの話が大げさになってしまったが、たかがもんじゃなんだから、そっとして置いて欲しいと思うのは変だろうか? 単なる私のノスタルジックなわがままか、時代についていけないオジサンの愚痴かもしれない(多分そうだな・笑)。しかし、進化するならもう少しホッと一息付けるような進化を望みたいものだ。南北線のホームのように。

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