HITORIGOTO
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デザイナーはワガママだ



 自分で言うのも何だが、デザイナーはワガママで生意気な人種だ。仕事をしている時は、本当に自分でも嫌なヤツだと思うくらいワガママな性格になっている。昔、営業を担当している同僚とコンビを組んで仕事をしていた時も、よくこんなヤツと一緒に仕事が出来るなぁ…と、その同僚を哀れんだことさえある。

 体中から「今、オレに話しかけるんじゃねぇ!」とばかりにオーラを発し、ついさっきまで馬鹿話していたのに、いきなり機嫌が悪くなっている、なんてことは日常茶飯事で、迂闊に話しかけて、何も悪くないのに怒鳴り返された後輩もいた。悪いことをしたなぁ…。

 ちょっと言い訳してみると、デザイナーに限らず「クリエーター」という人の仕事は、いかに手際よく、綺麗に、そして早く組み立てられるかというスキルも求められるが、それ以上に難しいのが、まず、その設計図を考え出さなければならないこと、いや、それ以前に何を作れば良いのかを考えなければならないことなわけで、それは考えれば答えが出るものでもなく、また出した答えが正しいのかも自分では判断できず、その作業中はまさに「産みの苦しみ」のまっただ中、とても周りの事に気を配っている余裕なんて、これっぽちも無いんだ…と言うのは、言い訳にもならないかな(笑)。

 そうしてたどり着いた結果を絵にして、はじめて自分の中で「完成」とするわけだけど、その苦しみを知らない人間に、ムゲに「ここ、青じゃなくて、赤がいいなぁ…」なんて思いつきで言われた日には、そりゃ、反論の一つもしたくなる。で、その思いが強ければ強いほど、険悪な雰囲気になり、私のような頑固者に至っては、最悪の場合、喧嘩腰にすらなりかねない。後から冷静になってみると、なんて私は自己中なんだろうと反省するのだが、やはりまた同じ場面で同じ事を繰り返してしまう。きっとこれは、どうしようもないデザイナーの性なのだと思うのだが、そう思うのはもしかして私だけだろうか?

 もちろん指摘されたことが確かに納得できる物は素直に従うし、自分の未熟さを恥じたりもする。しかし制作者には制作した意図があり、いい物を作りたい、作った意図をしっかり吟味してから決断して欲しい、という思いから来るものなので、誤解を恐れずに言えば、ある意味デザイナーはワガママなくらいじゃないとダメなのでは、とも思っているのだが、それもやはり私のワガママだろうか?
えてして、制作者というのは自己満足に陥りがちで、そのワガママが全然的はずれの物になっていることが、よくあることも知っている。もちろん、そんなのは論外なのだが、自分で満足できない物を他人が満足するはずもない、とも思う。

 そんなヤツとコンビを組んで仕事をしていた元同僚は、クライアントと私の板挟みで、かつ売り上げという数字を持って帰らねばならないという「無理難題」を一身に背負ってしまった、とても可哀想な立場だったわけで、それはもう、哀れすぎて同情の極みと言うか、私には絶対にマネできないと言うか、とにかく辛い日々を送っていたわけだ。可哀想に…アーメン(笑)。

 独立してからと言うもの、さすがにこのままでは仕事を干されるのが目に見えていたので、私もだいぶ丸くなった。お客さんの前では一旦グッとこらえて、意見を一通り聞き「お客様の言うこともよく解ります」と一応相づちをうってから、言葉を選びながら反論するように心がけるようになった。我ながら大人になったものだ(笑)。

 同時に、できる広告代理店の営業マンは、こちらの心理を心得ていることも知った。何というか、実に気持ちよく仕事をさせてくれるのだ。腹の中ではどう思っているのかは知らないが、デザイナーの意見を出来る限り尊重してくれる。「ブタもおだてりゃ木に登る」ではないが、私のように単純な性格だと、「おだて」と解っていても、あの人の仕事ならよりいい物を、という気持ちになる。
デザインはメンタルな部分が非常に大きい。だからこそ制作者のテンションが仕上がりに大きく繁栄されることを解っているのだろう。「デザイナーさんの真意をうまくクライアントに伝えられない・説得しきれないのは、私の力不足です。申しわけありません。」とまで言われてしまえば、たとえどんなに納得のいかない直しでも、何とかこの人の顔を立ててあげたい、とも思う。

 制作者として、代理店の営業の方と一緒にクライアントの元へ打ち合わせに同席することがある。そこで私と営業の方の扱いは、まさに「下請け」だ。クライアントからは「我々がお金を支払って、あんたらに仕事をさせてやってる」という感じがヒシヒシと伝わってくる。いや、まさにその通りで、我々は下請け以外の何者でもなく、お金を出しているクライアントが一番偉いのは至極当然なのも解っている。
考えてみれば営業さんは、毎日この空気の中で仕事を進行させているわけで、さらに私のワガママをこの人達に通そうと努力されているのだ。なのに私に対しては、決して「下請け」ではなく「スタッフ」として扱ってくれる。この違いはものすごく大きい。だからこそ「この人の仕事なら…」という気持ちになる。
立場的には私はあくまで「下請け」なのは自分でも認識しているし、実際その通りだ。でも、そういう立場の人から「スタッフ」として一緒に一つの仕事を作り上げていく「仲間」という扱いを受けると、こちらとしても出来る限りの力を出して、それに報いようという気にもなるってもんだ。単純?・笑

 私は自分の中で、仕上がりのボーダーラインを決めている。この出来ならOK、これではちょっと恥ずかしくて私の仕事ですとは言えない、というラインだ。デザインは常に100点満点を取ることは不可能だし、どこが100点なのかもハッキリしたものではない。なので自分の中で、これなら80点だからOK、これでは60点でNGと言った具合だ。これは多分、同業者の方なら誰しも持っている物だと思う。
以前勤めていたデザイン会社に来るお客さんで、やはり我々を「下請け」扱いすると言うか、かなり威張りちらしていた方がいた。お金の払いはいいので、社長はそうでも無かったようだが、在籍するデザイナー達の間では、ものすごく不評だった。その方の仕事だと、例えば70点でボーダーラインギリギリの線だとしても、「まぁ、これでいいか」となってしまう。逆にいつも予算は無いのだが、とても感じの良いお客さんもいて、「いつもいつも予算が無くてすみません、なんとか今回も助けていただけませんでしょうか?」と言われれば、「よっしゃ」とばかりに、何とかしようとする。これはプロとしては失格なのかもしれないが、やはり人間として自然な気持ちだろう。

 前述の営業さんは、きっとこのあたりの心理を心得ているのだろう。決して我々に媚びを売っているわけではなく、言うべき所はしっかり言う。そして、その言葉を私が本当に素直に受け入れられるのは、やはりその人だから、という所だって多分にあると思う。
もちろん私だって、プロとして自分でNGを出すような物は提出しない。でもそれ以上のものを、つまりクリエーターの力を100%引き出すには、営業さんの力も大きい。所詮、仕事を動かしているのは人間対人間の関係なのだから。

 なんて、ここまで書いてみて思ったのだが、私って、威張ったクライアント以上に偉そうではないか…。あぁ、やっぱりワガママなんだな…。

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