HITORIGOTO
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NANTA



 どういうわけか、年明けから仕事が途切れない。嬉しい限りである。で、いつになく一生懸命仕事にはげむ1月を過ごした。この業界の人は知っていると思うが、大抵年末は忙しく、年が明けると冬枯れてしまうのが、印刷業界の通例である。そこにぶら下がっているデザイナーもしかり。だから1月に忙しいと言うことはとても珍しいことで、もしかしたらこの不況も少しは改善しているのだろうかと、密かに感じている今日この頃。

 まさか、こんなに忙しくなるとは思っていなかったので、女房と芝居を見に行く約束をしてしまった。芝居などほとんど見たことが無く、ましてプロの公演を見るのは初めてである。(知り合いがやっていたアマチュアの劇団のものは、つき合いで見たことが2・3度ある)
女房がテレビ番組の中でチラッとその芝居が紹介されたのを見たとき、「これはきっと面白い」とピンと来たそうである。女房のこの勘は結構あたる。それで前売りチケットを買っておいたのだが、その忙しさに何度か止めようかと思った。が、2人分で16,000円のチケットを無駄にしてしまうのは、あまりにもしのびなく、女房もかなり楽しみにしていたので、なんとか時間を作り青山劇場へと足を運んだ。

 NANTAというその芝居は韓国ではメジャーな芝居らしい。出演者も全て韓国人(全てといっても5人しか出てこないのだが)。韓国語で芝居やられたら、ストーリーがわからないのでは、と初め思っていたが、その心配は全く不要であった。ストーリーはいたってシンプル。結婚式の披露宴に出す料理を時間までに料理人が調理する、というだけのもの。出演者は4人の料理人とホテルの支配人の計5人。セリフはなんと「きゅーり」「にんじん」「たまねぎ」「れたす」そして「6時!」という5つだけ(しかも日本語)。あとは役者のパフォーマンスに終始する芝居だった。芝居と言うより、コンサートに近い。包丁やおたまでパーカッションのリズムセッションや、皿を投げたり回したり…。
いや、面白かった。楽しかったと言うべきか。手が痛くなるほど拍手や手拍子をしたのは何年ぶりだろう。2度のカーテンコール(アンコール?)の後、無理して来て良かった、と心から思った。

 NANTAは世界各地で公演されているらしい。そしてどの国でも評判が良いと聞いた。このようなパフォーマンスや音楽のリズムなどを楽しむ感覚は、やはり世界共通なのだろう。楽しいとか、悲しいとか美しいと感じる感性は、生まれた国や言葉や習慣の違い、ましてや肌の色には関係なく、心を持った人間全てに共通する感覚なんだと改めて感じた出来事だった。

 そして、それはデザインにも言えるのだろう。誰が見ても「美しい」とか「素敵だ」とか「かっこいい」と思ってもらえるものを、果たして私はいつかは作れるようになれるのだろうか。

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