HITORIGOTO
indexへもどる
「知らなかった」ではすまされないこと



 先日あるパンフレットを制作した際、ちょっとしたイメージイラストを入れたくなり、イラストレーターに発注してイラストを描いてもらった。嬉しいことにデザインもイラストも結構気に入ってもらえたようで、気持ちよくその仕事を終えることができた。しかし、しばらくして、その会社のホームページを何気なく見たら、パンフレット用に描いてもらったイラストがちゃっかり無断で使われている。これはあきらかにルール違反の2次使用なわけで、もちろん私はお客さんにクレームの電話を入れ、同時にイラストレータの方にも報告してお詫びをした。イラストレータの方が気持ちよく「別にいいですよ」と言ってくれたこともあり、お客さんに対しても「今回に限って使用を許可しますが、次回からは事前報告、および2次使用料を請求させていただきますよ」と念を押すことで、それ以上話を突っ込むのは止めることにした。

 この手の話は実によくあることで、クリエーターが制作した物の権利がどこにあるのか、日本ではキチンと認識されていない。著作権法によれば上記のイラストの場合などは、何の手続きをすることもなく、作者、つまりイラストレータが権利を有することになるそうだ。全ての著作物の権利は作者に属している。作者に断りなしに2次使用は許される物ではない。

 しかし、現実問題としては、どうだろう。本来は文書で、使用権と著作権の権利をどちらが保有するのか明記するべきなのだろうが、よほどの「売れっ子」でない限りそこまでしているケースはまれだと思う。我々はお客さんから発注していただいて制作し、対価をもらって生活している。あまり闇雲に権利ばかり主張していると、そのうち仕事を切られてしまうかも知れないわけで、ある程度大目に見ることが生きていく上で必要とされることが多い気がする。実際、私もそう言う目に何度もあってきたし、よっぽどのことでも無い限り、それで裁判をする気にはなれない。とりあえず「無断使用はいけないことですよ」と注意することが、せめてもの抵抗というのが、悲しいかな正直なところだ。

 実は数年前、こんな出来事があった。友人(フリーデザイナー)がチラシに使うイメージ写真をレンタルポジ屋で借りてきた。その写真は有名なマンガキャラクターをモチーフにしたブリキの玩具を撮影したものだった。そのキャラクターは名前を聞けば知らない人はいないだろう。ほうれん草を食べると、とたんに強くなるアレだ。キャラクターの絵そのものではなく、それをモチーフにしたブリキの玩具の写真だったことと、あまりにもよく使われている昔からあるキャラクターだったこと、またレンタルポジ屋でいかにも「どうぞお使いください」と言わんばかりに置いてあったこと、さらにレンタルポジ屋の受付の人に何も言われなかったことで、友人は何一つ疑問に思わず使ってしまった。また、その友人とクライアントの間に入っている代理店にも、チェック機能が備わっていなかったことから、問題は発生した。
そのキャラクターの版権はアメリカの会社が管理しているらしく、友人の制作したチラシは、その会社の日本法人の目に止まったらしい。はじめは「普通にレンタルポジとして貸し出されているものを、料金を払った上で使用しているのだから、こちらに非はない」と突っぱねたらしいが、だんだん話が大きくなり、とうとう裁判の一歩手前まで行ってしまったと聞いた。最終的には示談成立でペナルティ料金を代理店が支払い、友人もかなりの値引きを強いられたという。レンタルポジ屋は謝ったらしいが、責任は一切負わなかったそうだ。確かにレンタルポジ屋のナントカ書には、著作権等が発生する場合は自分で承諾を得ること、問題が生じても当社は一切責任を負わないことが7Qくらいの文字で書いてある。通常はレンタルポジ屋の受付の人が、貸し出しの際「この写真の場合著作権が生じるウンヌン」を説明してくれるはずなのだが、友人が借りた時はたまたまそういう知識を持っていなかった人が(教育中の新人だったのかも)貸し出し手続きをしてしまったのかも知れない。

 この話はレンタルポジ屋の受付の人、借りてきた友人、代理店の営業の認識不足から起こってしまった話だ。まさに知らなかったではすまされない話で、自分の権利を守ること以外にも、他人の権利を守ることを義務づけられていることを、しっかりと知っておかなければ、ある日突然「裁判です」と言われてしまうこともあるわけだ。

 ちなみに、この手の話がらみで私が過去経験したことを書いておくと、
やはりレンタルポジ屋でサッカーの写真を借りようとした時(まだJリーグができる前)注意された。写真に写っている選手には肖像権が発生するので、その選手に承諾を得ること。(そんなムチャな…笑)
著作権フリーとして売っている素材CD-ROMにも使用して良い媒体と、使用してはいけない媒体がある。よくあるのは印刷には使ってもよいがWebには不可というもの。ダウンロードすれば、いくらでも使い回しできるからだそうだ。Web用に使いたい場合はWebに使ってよいか確認してから購入する必要がある。(もちろん、だからと言ってWeb上にあるものは、ダウンロードして何でも無断で使用して良いわけではない)
大手文具店で和紙を購入して、パンフレットの地紋にしようとしたところ、店員に注意された。和紙にも版権があるため、商業目的で使用する場合は、やはり作者に承諾が必要だそうだ。

 同業者なら「ディズニーランド」がいかにそういうことに目を光らせているか、ご存知の方も多いだろう。あのネズミを連想させる、丸が3つくっついただけの形も、安易に使うことはできない。しかし、この厳しさは本来あるべき姿であり、他人の権利を守りることで、自分たちの権利を守られているのだろう。難しい話だが、この商売を続ける以上避けて通れないことだ。くれぐれもご用心を。

backindexnext