HITORIGOTO
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正しいベッドの選び方
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 先日、千葉県浦安市から船橋市に自宅を引っ越した。浦安市は歩道の整備が悪いことを除けば生活には便利な町で、何より駅に近いアパートに暮らしていたため、通勤がだいぶ楽だったこともあり、それなりに気に入っていたのだが、まぁ色々あって、思い切って少々広めのマンションへ越すことにした。
浦安市に住んだのは3年位だったが、その間、東京ディズニーシーのオープンがあり、浦安市民だった私たち夫婦はオープン前に無料招待されたことがあった。友人たちには随分とうらやましがられたが、私たちはそれほど興味が無く、まぁ、せっかくの無料ご招待だから行ってみるか…程度でひやかし半分に出かけたりもした。

 で、今回は別に東京ディズニーシーの話ではない。実はせっかくの引っ越しだから、結婚以来使い続けていた家具を新調することになり、色々と家具屋を見て回ったときの話だ。

 私たちにとっては家具を新たに買いそろえるというのは、かなり思い切った大きな買い物になる。なので、時間の許す限りたくさんの家具屋を見て回った。買ったのはソファーとテーブルのセット、ダイニングテーブルと椅子、そしてベッドだ。
私たちのように一式まとめて家具を揃えるという客は、やはり家具屋にしても美味しい客のようで、家具屋の店員はそれはもう、両手を揉むように私たちの後を付いてきては、必死に売り込みのセールストークを繰り広げる。はっきり言ってうざったい。しかもソファーやダイニングテーブルというのは、座り心地とデザイン、および予算しか選ぶ基準がないわけで、値段が合う物の中から、見た目のインスピレーションと座った感じで選ぶことになる。なので店員のセールストークも「こんな商品もあります」「これなんかどうですか?」という程度のものでしかなく、あとはずっと愛想笑いを続けているだけだ。

 しかし、ベッドとなると店員の態度は一変する。ベッドには色々なノウハウがあるらしく、ここぞとばかりにベッドのウンチク話をマシンガンのようにまくしたてるのだ。私たちは都合5〜6件の家具屋を見て回ったが、どの店でもベッドのコーナーでは、店員はまるで水を得た魚のようだった。
私は普段椅子に座りっぱなしの生活をしているせいか、少々腰痛を持っている。なので私自身、ちょっとベッドにはこだわりたかったこともあり、またそれぞれの店で聞いたベッドのウンチク話が面白かったので、ここで紹介することにする。

 どういう寝具が一番心地よい眠りにつくことができるか。人間は人生の3分の1を寝て過ごす。私のように腰痛持ちでなくても、デザイナーのようなデスクワークの人間にとっては、寝具選びは特に重要なのだ。

 実は人間は立っている時が一番自然で楽な姿勢なのだそうだ。これはどのお店の店員も同じ事を言っていたので、多分正しいのだろう。しかし残念なことに人間は立ったまま寝ることが出来ない。そこで立っている時の姿勢を保持したまま眠りにつける寝具が良いことになる。で、立っているときの姿勢のまま体を横にしてみるとわかるが、人間の体は平らに出来ていないため、お尻と背中の2点で体を支える事になる(右図)。

 これは当然無理なので、足は寝具に沿うように下へ降り、頭には枕を添えることになる(右図上)。しかし、これでも腰の部分には負担がかかっていることがわかるだろう(右図下)。私のように腹に脂肪がたまり、腰の上に余計な重量がかかる場合はなおさらだ。硬い布団も腰痛の原因は多分にあるとも聞いた。そこで考え出された究極のベッドが「ウォーターベッド」である。

 ウォーターベッドはその名の通りベッドの中に特殊な水が入っており、体にあわせてベッドの形状が変化してくれる。なので立っている時の姿勢のまま、体に負担をかけることなく眠ることができる。ちょうど水の上に浮いている状態を再現しようとしているわけだ。

 このように寝具は柔らかい物がいいらしい。例えば寝たきりの老人や病人が床ズレを起こすのは、硬いベッドが原因なのだそうだ。背中に体重が集中してかかるため、寝返りをうてない人はその圧迫から血行が悪くなり、床ズレを起こすのだと聞いた。また、硬いベッドと柔らかいベッドで寝比べて、一晩に何回寝返りをうつか計ったところ、柔らかいベッドは硬いベッドの実に5分の1だったそうだ。それだけでも柔らかいベッドの方が熟睡できるというのも頷ける。実際、煎餅布団で寝ていた私は、朝目覚めると背中とお尻が痺れていることがよくあった。
布団は硬い方が良いと聞くこともあるが、それは迷信だそうだ。確かに二昔前くらいまでは、こういうことに気を遣ったベッドがなく、ヤワなスプリングだけで作られてた寝心地の悪い粗悪品がまかり通っていて、それらに比べればまだ煎餅布団の方がマシだったらしい。しかし、体重の軽い子供ならいざ知らず、人間の体の形状を考えれば、ウォーターベッドのような寝具の方が、体にも良いことは明白だ。
ただし、こうも言われた。「そうは言っても睡眠はメンタルな部分が大きいので、いくら体に良いからといって、柔らかい寝具になじめない人がむりやり柔らかい物を使うと、かえって寝付かれずに睡眠不足になることがあります。それでは本末転倒なので、そういう方にはお勧めしてません。」
私は柔らかくても全然かまわない。だからこういうベッドが欲しい。もしこれで快眠の上に腰痛が治ってくれるのなら、こんなにすばらしいことは無いわけで、こういうベッドで寝られる日を思いながら店員の話を聞いていた。

ところが、このいいことずくめのウォーターベッドには致命的な弱点がいくつかあった。

つづく

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