HITORIGOTO
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段取りの値段



 私の仕事は足の長いものが多い。それは製品カタログの制作が中心となっているせいだ。新製品の発売時に間に合わせるカタログなため、メーカーの製品開発と同時進行で動くことが多く、製品開発が遅れると当然カタログの進行も遅れる。発売延期になればカタログ制作も延期だ。いつもスケジュールはそれに振り回されていて、例えば、たかがA4ペラ1枚の制作に数ヶ月かかるのはザラ、ヘタすると半年〜1年かかることもある。
名誉のために言って置くが、決して私の仕事が遅いからと言うわけではない(いや、まぁ、決して早いほうとは言えないかも知れないが…)。お客様の所で眠っている時間が多すぎるのであって、いざ動き出すと与えられる時間は少なく、いつも超特急という指示がでる。まぁ、これはいずこも一緒だろう。
しかし遅れるだけならまだしも、開発中止となってしまうと、当然カタログも中止なわけで、今までずいぶん日の目を見ないデザインを起こしてきた。まったく浮かばれない話だ。

 しかし、そういう理由でスケジュールがずれ込むのは、いたしかたない。仕事の性質なのであきらめている。ただ、それ以外にもかなり無駄な時間やお金が、意味もなく費やされている気がしてならない。そう、段取りの悪さだ。

 先日A4・4ページ、つまりA3両面のカタログを制作した。その仕事の私の直接のお客さんは代理店の営業さんであり、その上にクライアントがいる。クライアント・代理店・制作者(私)のリレーションがきちんと整っていれば、たかがA4・4ページ、その気になれば数日で製版入校までこぎ着けられる。ところがそのクライアントは、大企業にありがちな非常に風通しの悪い会社で、担当者からその上司、そのまた上司、そのまた…と永遠に多人数の決断を仰がなければGOサインが出ない。しかもその各人がそろいも揃って自分の意見を入れたがる。さらに悪いことに自分の意見が繁栄されてなければ、上司に見せられない、などと仰るので、一人ひとりクリアするために、その都度直しを入れてカラーカンプを出さなければならない羽目に陥った。結局その仕事は17校を経て製版入校にこぎ着けた。
私は製版入校までに起こる修正は、基本的に当初の制作料金に含む形にしているのだが、それもあくまで常識の範囲内とさせていただいている。当然だろう。そして17校はあきらかに常識の範囲を超えている。なので、その都度、修正料金を加算させてもらったところ、修正代が制作料金を上回ってしまった。それでいいのか? と代理店の営業さんには言ったのだが、営業さんもあきらめ顔で「あのクライアントは仕方がない。もちろんお金はちゃんと貰うから心配しないでください」と仰る。確かにお金になるなら、修正だって仕事の内。今日び仕事があるだけでも喜ばなくてはいけないとも思う。しかし、それにしても17校はあんまりだろう。作る方もやる気が失せてしまう。もうお金はいらないから、いい加減終わりにしてくれ、とさえ言いたくなる。

 何よりもったいないではないか。クライアントの社内できちんと意志疎通が出来てさえいれば、無駄な料金を発生させずにすんだのに。もちろん、それは私の元に入るお金なので、私は喜ぶべきかも知れないが、できればそんな馬鹿なことで儲かりたくはないし、所詮修正代などたかが知れている。かかる手間の方がよっぽど惜しい。

 そういえば以前、寝具のメーカーの仕事でこんなことがあった。ハウススタジオという、スタジオの内装が部屋の造りになっている特殊なスタジオを借りて、モデル撮影した時のことだ。予め打ち合わせで撮影予定日を決めて、スタジオもモデルもカメラマンも手配した。ロケではないのでお天気予備日はいらないし、合計6カットなので1日で撮り終えるはずだった。ところが撮影当日になって、商品6点のうち1点が揃わなかったことを聞かされた。クライアントは今日5カット撮影して、後日1カットだけの撮影日程を組んでくれと言う。聞けば数週間前から1点間に合わないことは解っていたのだが、まぁ、いいだろうと、こちらに連絡しなかったらしい。
数週間前に撮影をキャンセルして、商品全て揃った時点でまとめて撮影すれば、無駄な時間とお金を使わずにすんだのに。2日に分ければ、当然モデル代、スタジオ代は倍になるし、カメラマンへのギャラも高くなる。もちろんその料金は請求に上乗せされる。そのことはクライアントも知っていたはずなのに…。

 要するに、彼らは会社のお金だからどうでもいいのだ。私だって自分の懐が痛むわけではないのだが、こういう話は納得いかない。校正にしたって、うまく段取りを組めば1回ですむことなのに、それが出来ずに無駄な時間と労力とお金を浪費する。そしてその浪費している根元の人間は、そのことを無駄とも何とも思っていない。周りに思い当たる人がいませんか? 同業者のみなさん。
一生懸命、少しでもコストダウンできるように、お客様に喜んでもらえるようにと、私たちは努力しているわけで、あからさまにそういうことをやられると、とても虚しい気持ちでいっぱいになる。

 本当に日本は不景気なんだろうか? とさえ思ってしまう。そのくせ、制作の見積もりには厳しいのはどういう訳だ。稟議さえ通ってしまえば何でもアリか? 17校もしなければ、もう一冊新しいカタログを作ることだって出来たし、まとめて撮影すればモデルのランクだって上げられたろう。我々クリエーターは、お金はもちろん大事なのだが、お客様に喜んでもらえ、できれば自分の作品として誇れるような物を作りたいと、常に願っているのだ。
経費削減、人員削除と厳しいことを言う前に、まずこういうところから直すべきじゃないだろうか。そして、お互い気持ちよく、いい物を作りたいと思いませんか? 経営者さん。

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