HITORIGOTO
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筆を選ぶ



 弘法 筆を選ばず。その昔の立派な人は、道具の善し悪しなど関係なく素晴らしい文字を書いていたらしい。言わずもがな、私は立派な人ではないので素晴らしい作品などそうそう作れないが、立派な人でないが故、せめて良い道具を使えば良い物が作れそうな気がして、せっせと良さげな道具を調達してみては無力感に浸ってばっかりだ。

 まぁ、それはそれとして、やはり凡人の私には道具選びというのは大切だと思う。マシンのCPUは早いに越したことはないし、高性能のグラフィックカードを入れれば画面もサクサク動いてくれる。ただでさえ達人では無いのだから、せめてそのくらいのハンデを付けてもらわなくちゃ、とても弘法様には太刀打ちできない。

 先日、使い続けていたAppleのADBマウスが壊れた。現在私のメインマシンはG4/400なのだが、QuarkXPressを使うためにUSB-ADB変換アダプタを付けてドングルを繋げている。そのついでという事も多少あるが、G4に付いてきた丸形マウスがどうしても使いにくく、卵形のADBマウスを使い続けていた。
私がはじめてMacintoshを買った頃に、この卵形ADBマウスが附属するようになり、それまで会社で使っていた角型マウスより、はるかに手になじむ形をしていることに感激したものだ。そしてそれ以来、この卵形マウスに愛着を持って使っていた。

 壊れたと言ってもマウスの裏側にある「滑るためのシール」が剥がれただけなのだが、こんな些細な物でも、あるのと無いのとでは使い心地は雲泥の差。
実はこのシールが剥がれてしまったのは初めてではなく、以前にも一度同じ経験をしたことがある。その時はこんなシール一枚のために新しいマウスを買う気になれず、秋葉原でこのシールだけ売ってないか探し回ったのだが、そんな物はどこにも置いて無くて、あげく、店員に「マウスは消耗品ですから…。」と言われてすごすご引き下がった。
それでもと、ホームセンターで障子などの家具を滑らせるシールを買ってきてマウスに貼ってみたりしたのだが、使い心地は一層悪くなっただけ。そこまでくると悔しくて、シールのないまま無理矢理使い続けていたところ、右手が腱鞘炎になって腫れ上がってしまい、病院で手のひらに注射を打たれた記憶がある(バカ?)。

 そんな経験を持つ私は、今回のような時のために予備のADBマウスを3つほどストックしておいた。なので今回はシールの剥がれたマウスをためらいもなくゴミ箱へ捨てた。ところが、このストックしておいたマウス、見た目は卵形マウスそのものなのだが、実はApple純正ではなく、CENTURYというメーカーのもので、握った感じは全く違和感がないものの、クリックが軽すぎる。かるく指を添えたくらいでクリックしてしまうのだ。そ、そんな馬鹿な…とパッケージを見ると、しっかりCENTURY CORPORATIONとある。これって詐欺じゃないの?

 一時、サードパーティ製のマウスを幾つか試してみた時期があって、その時やはりクリックの軽いマウスを使って痛い目にあったことがある。ただカーソルを移動していただけのつもりが、知らずにオブジェクトをドラッグしてしまい、それに気が付かないまま印刷してしまったのだ。そんな怖いマウスは2度と使いたくない。で、Apple純正と疑いもせず買い置きしたこのマウスもまた、泣きたくなるほど軽いクリック。しかも未使用の状態で3つもある。箱にはご丁寧に「4,980円」の値段シールが残っている。悲しすぎる…。

 卵形マウスにこだわっていた私だったが、仕方なくここはあきらめて、別のマウスを試してみることに。現在の純正ボタン無しマウスという選択肢もあったのだが、せっかくなのでホイール付きのマウスを買ってきた。Windowsマシンに付いてきたホイール付きマウスは、握り心地は悪いが結構便利だ。で、秋葉原で物色してきたのがMicrosoftの2つボタン、ホイール付きのワイヤレスマウス。まだ手になじまないせいか、少々戸惑いながら使っているが、やはりホイールは便利だし、何よりワイヤレスは使い勝手が良い。このままどうにか慣れることが出来そうだったら、また2〜3つ買い置きしておこうと考えていた。
ところが少々問題点が発覚。ワイヤレスマウスは電池で動く。このマウスは単三電池2本で動いているのだが、あっという間に電池切れする。どうやらマウスの使用頻度によるみたいで、私のように毎日1日中使っていると、アルカリ電池でも1ヵ月と持たない。うーむ。。。

 アナログ時代は鉛筆やグラフィックペン、三角定規がメインの道具だった。その頃もやはり道具には、ある程度こだわっていた。例えば鉛筆として使っていた芯ホルダー。ロットリング社の物は私には太すぎて握り心地が悪く、三菱の物を好んで使っていた。
ラフ用に使っていた極細のサインペンは「FINEPOINT SYSTEM」という製品が一番手になじんだ。今はどちらも生産中止でもう手に入らない。芯ホルダーは手元に残っている最後の1本を無くさないように気を付けて使っている(現在売られている三菱の芯ホルダーはロットリング社のもの並に太くなってしまった)。
サインペンは数年前、偶然近所の小さな文房具屋で在庫処分として売っているのを発見して、歓喜しながら在庫全てまとめ買いした。
「このペン、ずっと探してたんですよ。とっくに生産中止でしょう? メーカーさん、似たような物を出してるようですけど、やっぱり微妙に違うんですよね。良かった、もう2度と手に入らないだろなって諦めてたから、これ見つけてビックリしましたよ。」と言うと、文房具屋のおばちゃんは
「そうですか。倉庫整理していたらたまたま出てきて、今日ここに並べたんですよ(笑)。文具って、そういう固定ファンの方が結構いて、在庫処分するとそんな風に喜ぶお客さんもいらっしゃるんですよ。メーカーさんも生産中止しないで作り続けてくれればいいんですけどね。」
ついでに三菱の細身の芯ホルダーは無いか聞いてみたが、やはりそれは無かった。ペンはやはり消耗品なので、あの時まとめ買いした物も、もうじき底をつく。まぁ、今は手書きのラフをほとんど書くことが無くなったので、もし最後の1本が使えなくなったら、今度こそきれいに諦められると思う。

 プロだからこそ道具にこだわるのか、道具を選ばず良い物を作るのがプロなのか、それは何とも言えないが、弘法様のような達人でない私は、手になじんだ使いやすい道具で物作りを続けたい。なのでメーカーさんの事情も解るけど、そう簡単に生産中止しないで欲しい。
そして現在の私にとって、FINEPOINT SYSTEMのペンに取って代わったのがマウスやキーボードだ。文具に比べてパソコン関係の道具達は、その回転が速すぎるのではないだろうか? 道具が手になじむのには、ある程度の時間が必要で、やっとなじんだ頃に生産中止ではちょっと困る。実際、自宅でも事務所でも、まだ604e時代のマシンは現役で働いており、これらのマウスが壊れたときはどうしようか悩ましい。

 もっとも、じゃ手になじんだ道具を使い続けられれば、いつかは弘法のように素晴らしい物が作れるようになるのか、と突っ込まれると、それは……。でも筆を選ばない弘法ですら「弘法も筆の誤り」があるわけだから、私程度が誤りだらけでも、それはそれで仕方がないとか言ってみたりして…。

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